2011年03月21日

ヘラクレス神話

英雄の冒険は、成人と成熟を果たした後、物質世界と結びついた感覚を滅ぼして最終的には不死性を獲得する場合があります。
不死性の獲得は、「冥界下り」を経験したり、「生命の樹の実」を手に入れたり、神的な「火による浄化」というテーマとして現れます。


ギリシャ神話最高の英雄ヘラクレスは不死の獲得にまで進みました。
彼はギリシャで唯一「光輝く勝利者」と呼ばれましたが、これは仏教の如来が「勝利者」という意味であることと似ています。
ヘラクレスの不死性の獲得は、最後の2つの難行と、死に方に関係しています。


まず、彼は冥界の門番の犬、ケルベロスを捕まえることで、自由に冥界に出入りできるようになります。
つまり、生きているうちに冥界を克服するのです。そのために、まず、彼は様々な人などを殺した汚れをエレウシスの秘儀によって浄化してもらいます。
この秘儀については後日アップします。
そして、冥界の死の河の渡し守カロンと格闘の結果、その河を渡って、冥界王ハデスのもとに行きます。
そして、ライオンの皮の衣と胸あてだけをつけて、素手でケルベロスを捕まえます。


次に、彼は「黄金のリンゴ」を奪って不死性を得ます。黄金のリンゴは、太陽神ヘリオスが復活する場所である世界の西端にある「ヘスペリス(運命を司る女の精霊ニンフ)たちの園」にあります。
ここにはゼウスが宮殿を持っていて、ゼウスの妻ヘラは不滅の泉のそばに新婚のベッドを持っています。
黄金のリンゴは決して目を閉じない龍ラドンとニンフが守っています。ヘラクレスがいかにして黄金のリンゴを手に入れたかにはいくつかの物語があります。
彼はプロメテウスを救ったお礼に、プロメテウスと同じティタン神族で天を支えている怪力の持ち主アトラスに、黄金のリンゴを取ってこさせるようアドバイスを受けました。
あるいは、ヘラクレス自身がラドンを倒すか眠らせて、リンゴを取ったとも伝えられています。
ただ、彼がこれを食べたかどうかも不明です。
彼はリンゴをゼウスに返したとも伝えられています。


ですが、ヘラクレスにも肉体の死が訪れます。彼は妻デイアネイラを襲ったケンタウロスを殺しますが、ケンタウロスが死に際に妻を騙して、ケンタウロスの血である毒を塗った服をヘラクレスに着させます。
ヘラクレスはもがき苦しんだ末に、自らを生きながら火葬にさせます。
そして、彼は骨を残すことなく、オリンポスに昇って不死性を与えられます。


ケンタウロスの毒による苦しみは、物質的なものを否定する苦行を象徴しています。
また、生きながらの火葬による死は、苦行の後に可死なる物質性を浄化・分離して、不死なる神性のみを獲得することを象徴しています。



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2011年03月20日

テシュプとイルルヤンカシュの神話

嵐神テシュプが龍神イルルヤンカシュを退治する古いヒッタイト(現在のトルコ地方)の神話は、人間の死と不死について語ります。
これは主神による龍退治の神話ですが、単に成人や成熟のプロセス、国家的秩序の確立を示すのではない深い秘密を語っています。 

「龍神は嵐神と闘って勝ち、嵐神の心臓と目を奪いました。
嵐神は貧乏な人間の男の娘と結婚して男の子を生ませました。
この息子が成人すると、嵐神は龍神の娘と結婚させました。
そして、龍神の家から、嵐神の心臓と目を取り戻させました。
嵐神は再び龍神を闘って、今度は勝ちました。
ですが、息子は妻を見捨てることができなかったので、龍神と共に死んでしまいました」 

この神話が語るのは、まず、主神の龍退治に神の意識を受け継いだ人間の力が必要だということです。
これはギリシャ神話でも同じです。
ゼウスは巨人族を退治するためには、人間に生ませたヘラクレスやディオニュソスの助けを借りる必要がありました。
人間は、嵐神に比べて地上の物質性の中に住んでいるので、龍に対する知識や制御力に秀でる可能性があるのです。
心理的には、人間は無意識に向かい合う意識、嵐神は獲得されるべき秩序を示します。

この神話が興味深いのは、嵐神の目と心臓が龍神に奪われたことです。
神の目と心臓は、物質世界に捕らわれて潜在化している神的な意識や智恵と力を象徴します。
嵐神と貧乏な人間の男の娘の息子が龍神の娘と結婚することは、意識が物質性や無意識の深層に潜ることを意味します。
そして、嵐神の目と心臓を取り戻して、この無意識の底から神性を目覚めさせるのです。
これは、重要なテーマです。
ですが、息子は物質性の象徴である妻に囚われて死んでしまいます。
言語的な秩序が確立されて、人間の死すべき運命が生まれたことを表現しているのでしょう。

しかし、疑問は残ります。この龍神の娘には、単に言語的な秩序を生むことになる龍神が奪った目と心臓とは別のレベルの神性がまだ眠っているかもしれません。
もし、そうだとしたら、嵐神の息子がこの神性を目覚ませると、嵐神を乗り越える存在となるかもしれません。
テティスの息子がゼウスを乗り越える可能性を持っていたのと同じように。
だからこそ嵐神は息子を殺したのです。
この神話は、人間の不死性の可能性とその方法を暗示しています。    

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プロメテウス神話

ギリシャ神話のプロメテウス神話は、人間が死すべき運命となった原因と、不死の化の可能性について語ります。

「古い神々であるティタン神族のプロメテウスとエピメテウスは、ゼウスから人間を神々と区別された運命を持った者に完成させる仕事を任されました。
エピメテウスは誤って、人間には動物に比べて弱々しい肉体しか与えませんでした。
一方、プロメテウスは牛を人間と神々に分配する時に、人間のために価値があると思った牛の肉を選んでこれを皮と胃袋に隠し、ゼウスには価値のないと思った牛の骨を脂肪でくるんで良く見せてこれを選ばせて渡しました。
ですが、実際は骨こそが不死なるもので、肉の方が可死なるものだったのです。

こうして人間の死すべき運命が暗示されました。


ゼウスはこの企みに怒り、人間から火を隠したので、プロメテウスは人間のために火を盗み出しました。
ゼウスはまたこれに怒って、プロメテウスを岩にくくりつけて串刺しにして、毎昼に大鷹に肝臓を食べられ続ける責め苦を負わせることにしました。


ですが、プロメテウスはティターン神である母からゼウスに関する秘密を聞いて知っていたので、ゼウスはこれと交換に彼を助けることにしました。
その秘密とは、海の女神の1人テティスが生む男神の子はやがてゼウスをしのぐ神になる、というものでした。
ですから、ゼウスはテティスに求婚していましたが、これを止めて、テティスを無理やり人間の男と結婚させました。
そして、ゼウスの子ヘラクレスに大鷹を射殺させて、プロメテウスを神々の仲間に復帰させました。
また一説によると、ヘラクレスの毒矢で誤って傷を受けたケンタウロスのケイロンが、自らの不死性をプロメテウスに捧げた、とも伝えられています。

また、ゼウスは、プロメテウスの兄弟であるエピメテウスの元に、外見は美しいけれど恥知らずでずる賢い女神パンドラを贈りました。
エピメテウスはプロメテウスから贈物を受け取るなと注意されていましたが、外見に騙されて受け取ってしまいます。
パンドラが秘密の箱を開けると、人間に死をもたらすあらゆる不幸がそこから出てしまい、希望だけが箱の中に残りました。
また、人間の女性もパンドラをもとに生まれます。
こうして初めて、人間は死すべき存在となり、労働し、女性を養い、女性に子を生ませないといけなくなりました」


プロメテウスは意識的な人間の原型のような存在です。
プロメテウスが責め苦を負うのは、成熟のプロセスを歩み始める童話の主人公の不健康や貧乏、そしてパルツィヴァル神話の聖杯王の傷と同じです。
つまり、言語的、日常的、文化的な秩序によって無意識的な創造性が殺されている人間の状態を象徴しています。
プロメテウスは文化・言語的秩序の象徴である火を盗んだ結果、言語的な意識が働く昼に、生命力の象徴である肝臓を食べられるのです(肝臓には痛感がないので、この痛みには気づけないという解釈もあります)。

そして、不死性を獲得したヘラクレスこそが、プロメテウスを解放させるのです。
また、プロメテウスは不死なものと可死なものを取り違えました。
ですからその結果、彼は死すべき物質の象徴である岩にしばりつけられたのです。

プロメテウスが意識的な人格だとすると、エピメテウスは無意識的な人格で肉体性に関係します。
パンドラの神話は、直接的には女性、労働、死の起源の物語で、女性蔑視も感じます。
ですが、パンドラや女性は物質性、肉体性の象徴で、プロメテウスが物質的なものを選んだことと、エピメテウスがパンドラを受け取ったことは対応しています。
その結果、人間は死すべきものとなったのです。

ですが、箱の中には希望が残っています。
この希望の意味は、プロメテウスが知っていたテティスの話が明かしてくれます。
つまり、女神テティスに象徴される人間の魂が、男神に象徴される不死なる神性を受け入れて育むことで、主神ゼウスを越える存在が生まれるのです。
主神が変われば、人間も変わります。
つまり、言語的秩序が無意識を抑圧するような人間の意識のあり方や、死すべき人間の運命が乗り越えられるのです。

「火」と「女」を贈られた人間は、堕落した不完全な存在です。
この「火」は文化を象徴するもので「知恵の樹の実」に相当します。
「女」はその知恵をも含めて人間を物質に向かわせます。
「生命の樹の実」に相当するのは、後の節で紹介するデルメルとディオニュソスが贈る「秘儀」なのです。
そして、ゼウスを越える神とは、ディオニュソスなのです。
 

  
posted by morfo at 08:34| Comment(0) | 不死探求の神話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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