2013年02月18日

秘儀宗教とは

秘儀宗教はそのイニシエーションを受けた人間に、神的な生と、死後の祝福を保証するものでした。
つまり、人間が不死性の獲得を目的としていたのです。
ですが、秘儀は非公開のものなので、その実体は知られていません。
この節では、その知られざる秘儀宗教の本質を推理しましょう。


秘儀宗教(密儀宗教、ギリシャ語で「ミステリオン」、英語で「ミステリーズ」)は、神の死と再生というテーマの神話を演劇的・儀式的に再現するなどして、信者の特別なイニシエーションを行う神秘主義的傾向を持った宗教です。
これらは、オリエントとヨーロッパ世界でおおむね紀元前後の1000年間に盛んだった宗教のスタイルです。


アレキサンダー大王の征服遠征によって、オリエント各地の神殿国家が崩壊し、その司祭達は各地に移動し、国と王のためではなく、一般人を対象にした活動を行うことになったのです。
アレキサンダー後のヘレニズム、ローマ時代は、東西の文化の交流が盛んになり、宗教的にはオリエント起源の様々な秘儀的宗教が互いに影響を受け合いながら各地に広がりました。
中でも代表的な秘儀は、エジプト起源のイシス=オシリス秘儀やセラピス秘儀、ギリシャのエレウシス秘儀やオルペウス秘儀、バルカン半島起源のバッコス(ディオニュソス)秘儀、サモス島のカビリ秘儀、トルコ起源のアッティス=キュベレ秘儀、ペルシャ起源のミトラス秘儀などです。


秘儀宗教の特徴は、国家や共同体を守護し豊穰を祈る宗教と違って、主に(死後の)個人の霊魂の救済を目的としたことです。
各個人が象徴的で神秘的な儀礼によって神的なものとの直接的な交流をして、個人の霊魂に眠る神性を覚醒させて死後の不死性を目指したのです。


秘儀宗教の祭儀には、一般の信者が参加して公に行われるいくつかの祭儀(これには地域共同体としての性質もありました)と、選ばれた者だけが参加できる個人的なイニシエーションである「秘儀」の2種類がありました。
秘儀は「小秘儀」、「大秘儀」、「奥義秘儀」というように、2〜3段階で構成されていました。
公の祭儀は、集団で神話を再現するような行為を行なったりするもので、その実体が知られています。
ですが、秘儀の教義や体験については、部外者には絶対的な秘密厳守が原則になっていましたので、その実体は不明です。
秘儀の内実は、秘儀体験者によって書かれた文学や哲学などの中に部分的に表現されていますので、これをもとに推測するしかありません。


「秘儀」では、個人が順を追って様々な象徴的な行為を行ったり、象徴的な事物を見せられたりすることを通して、直接的な霊的体験をしました。
秘儀の最も基本的な象徴はもちろん「死と再生」ですが、秘儀によっては複雑に体系化されていました。
「聖餐」も重要な意味を持ちました。飲食されるものは死する神そのもの、つまり神的なものの象徴でした。
聖餐に供されたものは古くは牛や羊の肉や血でしたが、肉はパンに、血は蜂蜜やブドウ酒などに置き換えられていきました。幻覚性の飲料水が使われることもありました。


「秘儀」、特に「大秘儀」や「奥義秘儀」には単なる演劇的象徴以上の部分もあったと思います。
つまり、長期的な観想の訓練をもとにした、脱魂的トリップや実際的な霊的な力の操作が行われていたと推測できます。
ですが、確かなことは分かりません。
 

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2011年04月17日

イシス=オシリス秘儀

イシス=オシリスの公の祭儀には、「イシスの船」と呼ばれる春に行われる航海の始まりを知られるものと、「インヴェンティオ」と呼ばれる秋に行われるオシリスの死と復活を演じる演劇的な儀礼がありました。
後者では、オシリスの死を象徴して穀物の束を切り取ったり、復活を象徴して倒してあった「ジェド柱(これも穀物の束を盛ったもので、日本の稲叢に相当します)」を立てるといった儀礼が行われたと思われます。


(後世?)これらとは別に個人的なイニシエーションの秘儀が3段階で構成されていました。
それは「イシス小秘儀」と「オシリスの大秘儀」、そしておそらく「奥義秘儀」と呼ばれました。


イシスの祭りでは動物を犠牲にせずに、乳、蜂蜜、薬草が選ばれました。
それに、肉食や飲酒も禁止されました。
このことは、キュベレやディオニュソスの秘儀の荒々しく熱狂的な性質とは異なって、イシス秘儀が洗練され瞑想的な性質を持っていることを示しています。


秘儀の具体的な部分はほとんど分かっていません。
ですが、イシスの秘儀参入を扱った古代文学のアプレイウス『黄金のロバ』に記述があります。
これによれば、イシスの小秘儀では、秘儀参入者はまず10日間肉食と飲酒を避けます。
そして、新しい麻の服を着て冥界のプロセルピナの神殿を模した地下の部屋に降りて行きます。
死後に魂は肉体から抜け出て、冥界に赴き、物質世界と結びついた一切の感覚やイメージを解体するのです。
そして、次に4大元素の領域を通過します。
魂は、まず4大元素という物質の根源的な力によって浄化されるのです。
これは宇宙論的には月下の煉獄に相当します。


次に、参入者は順に様々な神々の部屋に昇って行きます。
これは7惑星の神々など、宇宙の様々な階層に対応します。そして、おそらく明るい部屋に入って自らをオシリスあるいはホルスと同一視します。
この部分は「真夜中の太陽を見る」と表現されています。
これは、自らの魂のなかの意識的・自我的な作用を、地下の太陽のような存在として認識して発見するのです。
つまり、太陽が自然に光をそそぎ育むように、地下の太陽に例えられ肉体の中に墜ちた魂の意識的な自我が、肉体に働きかけてこれを育むのです。

そして次の朝、参入者は夜中の12時間、あるいは12宮を象徴する12の法衣を着てシュロの葉の花冠をいだき、イシス像と司祭の前に立ちます。
この姿は復活するオシリス=ホルス、あるいはイシスの象徴です。


そして翌日、儀礼的な宴によってイニシエーションが完了します。
こうして入会者は完全に浄化された魂として再生するのです。


参入者は1年後にオシリスの大秘儀を受けます。
さらに3つめのイニシエーションである奥義秘儀が来ます。これらについては不明です。
ですが、大秘儀では単なる魂の再生ではなくて、霊的・神的な誕生・復帰がテーマになっていたと推測できます。
つまり、小秘儀が4大元素や7惑星、恒星天にある12宮と関係した魂を問題にしていたのに対して、大秘儀は恒星天を通り抜けた宇宙の外、神の世界と関係した霊魂の神的部分を問題にしていたのです。
ですから、参入者が地下から地上に出るという行為も、最終的には天球の外に出るということの象徴とされたはずです。


これまで紹介したのは、演劇的な象徴的行為による儀礼ですが、大秘秘儀や奥義秘儀にはこれ以外にも、より直接的な瞑想的トリップ体験が重視されたかもしれません。
言い伝えによると、参入者は3日間に渡って仮死状態となって実際に魂世界、霊的世界を体験したと言われています。


このように、イシス=オシリスの秘儀の儀礼と象徴には、ヘレニズム期のオリエントの様々な象徴体系が統合されています。

ちなみに、クフ王の大ピラミッドにもイシス=オシリスの秘儀と類似した構造があります。
女王の間にはイシスを表すシリウスへ向かった通気孔のようなものがあって、王の間にはオシリスを表すオリオン座セータ星へ向かった通気孔のようなものがあります。
女王の間にはイシスの霊がやってきて聖婚を行い、王の間からオリオンのオシリスの宮殿へと昇天したのでしょう。

isishigi.jpg

*イシス秘儀の様子(「図説 古代密儀宗教」平凡社 より)
  

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古代エジプトのコスモロジーと死後観

イシス=オシリス秘儀の説明の前に、古代エジプトのコスモロジーと死後観を見てみましょう。

古代エジプトは周辺の多くの移民が住む多民族国家で、各都市それぞれが各時代によって様々な神話と神々を持っていて、それが複雑に絡み合ってきました。
ですが、はっきりと循環する自然環境の影響は共通です。
エジプトでは3ケ月の乾燥期の後、3ケ月の洪水期があり、3ケ月の農作期が来ます。
エジプトの死と再生の主人公は、主に次の3種類があります。
1つはオシリスに代表される穀物神の年周期の復活、もう1つはナイルの女神の年周期の復活(来訪)、最後は、ラーやホルスに代表される太陽神の毎日、毎年の復活です。
オシリス神話以外の神話的発想も参考にみてみましょう。


エジプトでは大地は男神で、大地が浮かぶ大洋に水を供給する天が太母でした。
天は地の上だけでなく、地下世界の下にもあって世界を取り囲んでいます。
天の女神は「ヌート」です。
太陽神「ラー」は毎夕にヌートに飲み込まれて地下へ下り、毎朝ヌートの尻から生み出されます。
このヌーとラーの関係は旧石器時代の太母と太陽神の関係を引き継いでいます。


もう一人の太母が天牛女神「ハトホル」です。ハトホルは「女主人」、「西方の貴婦人」と呼ばれるように、本来は動物の女主、冥界母といった性質を持つ原地母神です。
彼女はヌートやイシス同様に、太陽の鷹神「ホルス」を生むのです。
エジプトでは多くの女神が互いに同一視されました。


エジプトでは、乾燥期の後、70日間隠れていたシリウス(シリウス女神ソテス=イシス)が姿を現し、太陽が獅子座(獅子女神セフメト=テフヌト)に入った頃、ナイルは増水し洪水期に入ります。
これがエジプトの新年(太陽暦の7月)です。
ナイルの川は北からエジプトに流れますが、その激しい流れは徐々に優しくなります。
そしてエジプトを原初の海「ヌン」のように水没させます。


ナイルの増水は、遠方に去っていた女神が戻ってくるのだと考えられました。
この遠方の女神は太陽神の娘であり、乾季に遠方に去って野生に戻りますが、新年には鎮められて優しく若々しい姿で連れ戻されます。
これは女神の4変化として現されます。
根源の太母、としての牛女神「ハトホル」、ラーの目で荒々しい獅子女神「セフメト(テフヌト)」、可愛らしく多産の猫女神「バステト」、ラーの額で守護する蛇の女神「ウアジャト(ウラエウス)」です。
エジプトの新年には、ナイルの増水と共に遠方の女神が復帰し、同時にこの水没という女神の子宮の中で、穀物神オシリスが復活し、死者達も復活します。


イシス=オシリスの秘儀はヘレニズム期の階層的な宇宙論をもとにして体系化されていますが、秘儀を紹介する前に、神話の基盤になった古代エジプトの宇宙論、死後観を簡単に紹介しましょう。
太古には、死後の冥界は地下に考えられたのでしょうが、紀元前数千年の頃にはすでに天上志向の死後観が出来上がっていました。
エジプトの死後観に関しては様々な解釈がありますが、以下の説明はイギリスのエジプト学の権威、ウオリス・バッジの『エジプトの死者の書(古代エジプトの原題は「日の下に出現することの書」)』を中心にしています。


まず、死後の世界は上下に階層的になっていて、「天国(霊的な世界)」や「極楽(優れた魂の世界)」、「魂の世界」、「地獄(冥界)」に相当する場所があります。これらの世界は、現実の宇宙との位置関係では考えなかったようですが、あえて言えば重なって考えられていたのかもしれません。

人は死後、死体から魂の体「クウ」(=アストラル体)を得て、さんずの河や冥界のような危険な場所を通って魂の世界に至ります。

そして、オシリスの審判によって裁かれて、悪人は地獄に落とされて凶霊になり、善人は魂の世界に生きます。
ですが、魂の世界での魂は不安定で、高い意識の状態「バー」(高次なアストラル魂に相当するもので、コウノトリや人頭の鳥として表現されました)になったり、低い意識の状態「カー」(低次なアストラル魂に相当するもので、両腕として表現されました)になったりします。
魂の世界で修行に励むと「バー」の状態や、あるいはより高い霊的な「アク」(トキや不死鳥として表現されました)の状態になって、天国に昇ったり最終的には太陽神ラーの舟に乗ることもできますが、逆に、悪い記憶を思いだしたりすると「カー」の状態になって、地獄に捕らわれることもあります。


魂の状態は魂の体「クウ」の健康と関係しています。
「クウ」の健康は、「クウ」が生まれるまでの死体の保存状態(何よりもまず死体が切断されることを絶対に避けなければいけません)や、死体に対する呪術によって保証されます。
主な呪術には、「クウ」が健全な口(言葉)、手足、目、生前の記憶などを獲得するためのものがあります。


呪術を行うと、死体に「サーフ」と呼ばれる霊体が発生して、これが死後の魂や「クウ」に良い影響を与えるのです。
死体は4つの内臓(肝臓、肺、胃、腸)を入れた壷と、心臓を残したミイラに分けて別々に保存されました。


ミイラや墓は神々にとっての神像や神殿と同じような、捧げ物をもらったり、休憩する場所と考えられました。
ミイラに対する呪術は、魂を天国にまで導くことに重点が置かれていて、内臓に対する呪術や葬儀の儀礼は、健全な「クウ」を得て魂の世界で健康に生活することに重点が置かれていたと推測されます。
また、魂の世界で「クウ」を凶霊に食べられたりして地獄に落ちることもありますが、魂の世界での呪術によって魂の世界に戻ることも可能です。


魂の世界では呪文が大きな力を持っていますが、これは魂の世界自体が言葉でできているからだと考えられています。
この考え方はプラトンやキリスト教と同じです。


このように、古代エジプトで「不死」とは魂の世界や天国で生きること、「再死」とは地獄に落ちること、「復活」とは死後に魂の世界に生きること、もしくは地獄から魂の世界に脱出することを意味します。


時代が下ってヘレニズム期には、古代エジプト死後の様々な世界はベビロニア起源の階層的な宇宙論の対応して置き換えられていきました。
魂の世界は7惑星天に置き換わりました。
極楽はその上で宇宙の最上部である恒星天に相当するでしょう。
そして、太陽神ラーの世界やオシリスのいる天国は、宇宙の外である神の世界となりました。
そして、月より下の世界は4大元素でできた煉獄的な世界です。
 

posted by morfo at 22:09| Comment(0) | 秘儀神話と秘儀宗教 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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