2013年02月18日

豊穣の神話

この章では、自然の豊穰と循環をテーマにした歴史時代以前の神話を紹介します。
次の章で紹介する秘儀神話は、この豊穰の神話を変形したり再解釈することで生まれました。
この章では、豊穰神話を産業の様式に結びつけた形で解釈します。
また、心理的、構造的な解釈も行います。
秘儀宗教が行ったような神秘主義的な解釈は次の節で紹介しましょう。


神話の中でも自然の豊穰力と関係したテーマの物語はとりわけ重要です。それは、食料の確保という生死に関わる問題と直結しているからです。ですが、神話的な思考は様々な現象の背後に共通して存在する原理を象徴的に捉えますから、自然の豊穰力を扱った神話は、同時に社会や人間の精神的な創造力や霊的な創造力のテーマにもつながっています。

自然の豊穰力をテーマにした神話には、豊穰神、地母神、穀物神などの死と復活、あるいは不毛神との戦いといった物語が多くあります。
これらはたいてい自然の年周期の循環と関係しています。
また、こういった神々の物語以外にも、様々な形で男性原理と女性原理の関係を扱っています。ですが、神話によってその関係は様々です。

自然の豊穰をテーマにした神話は、その社会の産業の様式と密接に関係しています。
狩猟・採集、農耕・栽培、牧畜と、それぞれの産業の様式を反映した固有の神話を考えることができます。
中でも、年周期の自然の循環(死と再生)をテーマにした神話を重視したのは、新石器時代以降の農耕・牧畜文化です。
ですが、その神話に狩猟・採集文化の影響も残っていることがあります。

ですが、こういった歴史時代以前の本来の神話はほとんど忘れ去られていて、神話の中に断片的に変形された形で残っているものと、壁画やレリーフ、神像などとして残されている考古学的な資料から推測するしかありません。
また、特定の産業に由来する神話が、違った産業を持つ民族によって再解釈されたり、異なった産業を持つ部族を統合した国家がそれぞれの神話を組み合わせたりもしているので、単純に解釈することはできません。
ただ、産業の種類とその地方の気候によって、祭儀が行われる時期は異なるので、ある程度、どの産業に結びついた儀礼かは、推測できます。

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2011年04月06日

女神を殺害して変容させる男性神

狩猟・採集文化では、男性原理は女性原理のために自らを犠牲として捧げることで豊穰が約束されるとする傾向が強いようです。
先に紹介したアッティスの神話や、北欧神話の主神オーディンが世界樹に自らを吊して捧げることで神聖な文字を得神た神話にはこれが表現されています。


一方、男性原理が女性原理を傷つけることで創造性を得るという関係を示す神話もあります。
自然が豊穰力を持つためには、自然を天地創造以前の原初的なカオスの状態にでなく、正しく秩序づけることが必要だと考えているのです。
この自然の秩序は、社会の秩序と一体です。
男性的原理は言葉の力、意識的な秩序を意味して、女性原理は自然や無意識を現わします。これは男性神が女神に死と変容を与えるという物語として表現されます。


イモ類を主食にする栽培文化を反映したインドネシアの『ハイヌヴェレ神話』は次のような物語です。


「ヤシの樹から生まれた女神ハイヌヴェレは、大便で高価なものを次々に生み出しました。
マロ・ダンス(男性達が9重の螺旋状になって踊り、中心にいる女性達から樹の実や葉を受け取るという踊り)の時にも高価なものを男神に手渡しました。
神々はハイヌヴェレを気持ち悪く、ねたましく思って、生き埋めにしました。
これを知ったハイヌヴェレの父親的保護者のアメタは、ハイヌヴェレの死体を堀り出して切り刻んでこれを1つ1つ広場の回りに埋めました。
するとそこから、様々なイモ類など、これまでになかった食用植物が生まれました。
神々の長のムルア・サテネは、ハイヌヴェレの殺害に怒って、神々をマロ・ダンス同様に9重の螺旋を持つ門をくぐらせました。
これをくぐることができた者は人間になり、できなかった者は動物や精霊になりました」


ある原初的な存在の犠牲によって様々なものが生まれる、というテーマは普遍的に存在します。
この神話ではこれが食用植物の起源と、死ぬ運命を持つ人間の起源の2つに結びつけられています。


この神話で面白いのは、女性原理が不毛だから殺害されるのではなくて、豊穰過ぎるから殺害されるところです。
この神話は心理学的には、意識的な秩序である男性原理(人間、イモ)は、無意識(ハイヌヴェレ)の創造性を制限(殺害)することによって成立していることを表していると解釈できます。
マロ・ダンスがつくる中心はカオスに近い創造的な無意識の領域で、外側は人間が住む意識的な秩序の領域です。
無意識は分割されて日常的な創造性を生みます。


日本ではオオゲツヒメ神話がこの神話のヴァリエーションです。
解体した女神像を大地に埋める儀礼が世界的に見られますが、この儀礼はこの神話と関係しています。


この「八つ裂きにされ穀物を生む女神」のテーマは、「大地の耕作」とも結びつきます。
つまり、地母神は耕作によって傷つけられることによって、穀物を育むのです。
耕作の鍬を男根の象徴と考えることもあります。
 

posted by morfo at 23:21| Comment(0) | 豊穣と循環の神話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月04日

死して再生する生物の守護神

次は、生物の守護神が焦点となる神話です。植物神(穀物神)や動物神(有角神)は、年周期で死して再生します。

農耕・牧畜文化では生物神は冥界神に奪われ、母もしくは妻(恋人)の地母神は悲しんで隠れてしまい、大地は不毛となります。
神々は困って、生物の守護神の再生を計りますが、完全に死を免れることなく冥界と地上を行き来しなければなりません。
あるいは、地母神は生物の守護神を自分の身代わりに冥界の女神に渡してしまうこともあります。

シュメール神話では、金星の女神で地母神のイナンナは、冥界の征服に失敗して妹の冥界女王エレシュキガルに囚われます。
そして、牛飼いで夫のドゥムジ(動物神に等しい存在)を身代わりにして復活します。
ドゥムジは姉のブドウ酒の神ゲシュティアンナ(植物神です)が同情して、2人で交代で冥界に1/2ずつ留まることにしました。
この神話は牧畜と栽培文化を反映しています。

ギリシャ神話では、地母神のデルメルの娘で麦の穀物神であるペルセポネーが冥界王ハデスに奪われます。
デルメルが悲しんでオリンポスからいなくなると、大地が不毛になって神々が困りました。
それでペルセポネーは再生を許されますが、冥界の食物を口にしていたので、1年の1/3は冥界に留まらなくてはいけません。
この神話は、麦の農耕文化を反映しています。

一方、狩猟・採集文化の神話を受け継ぐ物語ででは、生物の守護神(若芽、太陽、猪などの神)は、地母神の息子であり恋人ですが、地母神自身によって殺されたり自殺して冥界に落ちます。
ですが、復活します。
本来の神話では地母神自身が冥界神であって、冬に冥界に降りた生物の守護神と結ばれ、彼を再生させるのですが、後世ではこの地母神の役割が理解できなくなって、物語も変容したのです。 

トルコの『アッティス神話』では、地母的のキュベレが、樹の芽から生まれたアッティスを独占しようとします。
その結果、アッティスは自らを去勢して樹の下で狂い死にします。ですが、アッティスの死体の髪の毛は伸びつつけます。
儀礼ではアッティスは再生します。
アッティスとキュベレの神話は次の節で詳しく紹介しています。

ケルトに伝わる狩猟文化の神話を残されている古代の絵画から推測しみしましょう。
(冬に)有角神である鹿神のケルヌンノスは冥界に降りて地母神アナと結ばれます。
ですが(春になると)、地上を荒らしていた破壊神エススが冥界に降りてアナが奪われます。アナが裏切ったのかもしれません。
その代わり、ケルヌンノスはアナから角を受け取って地上に上がって獣王となります。
ですが、(冬になると)また地下に下ってエススからアナを奪い返し、角を落とします。

これらの生物の守護神の死と再生の物語も、心理的には男性豊穰神の死と再生の物語と同じような意味を表わします。

posted by morfo at 23:35| Comment(0) | 豊穣と循環の神話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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