2011年05月01日

プトレマイオス派の堕落・救済神話

グノーシス派の神話の中でも、最も完成度が高い、アレキサンドリアのヴァレンティノス派の流れを汲むプトレマイオス派のローマ派の神話を取り上げて紹介しましょう。
非常に抽象的で難解ですが、神秘主義神学的に興味深いものです。


天上のアイオーン界に根源的な男性原理「原父=深淵」と共に女性原理「思考=沈黙」が存在しました。
それらから、まず、「霊的知性(ヌース)/真理」、「言葉(ロゴス)/命」、「原人間(アントロポス)/教会」が、そしてさらに「欲求/知恵(ソフィア)」に至る多くの男女原理のカップルが生まれて、アイオーン界は30の存在によって充足していました。


ですが、「原父」を認識できるのは「ヌース」だけでしたので、「ヌース」は他の存在にも「原父」の偉大さを伝えようとしました。
ですが、「原父」は皆に自ら「原父」を探究させようと考えていたので、「思考」が「ヌース」の伝達を制止しました。
それで、皆は「原父」を思考しようと熱望して、自分達に許された以上に「原父」に近づこうとしました。
特に、最も低い存在の「ソフィア」は伴侶の「欲求」と交わることなしに、「深淵」の中に形を失いかけましたが、アイオーン界の境界が彼女を守って固くしました。
 

ですが、彼女の固くなった「原父」を知ろうとする「意図(アカマート)」と「情念」は切り離されて、形のない存在として、影のような空虚な場所である中間界(神界と物質界の中間)に投げ出されました。
それで、「ヌース」は「キリスト/聖霊」を生み、これらが皆を固めて、「原父」は思考しえないという認識を皆に伝えてアイオーン界の秩序を回復しました。
形と認識を持つことで、充足した秩序が得られるのです。
そして、皆は、アイオーン界の外にも秩序をもたらすために、アイオーン界の秩序の成果として「イエス」とその守護天使達を生み出しました。


「ソフィア」の分身である「意図」と「情念」は「下なるソフィア」とも呼ばれます。
「キリスト」は形がない彼女のために形を作ってあげましたが、彼女にはまだ認識が欠けていたので、アイオーンに復帰できませんでした。
そのために、彼女の「情念」は悲しみ、恐れ、困窮、無知という4つの否定的な感情を発しました。
ですが、彼女は「帰ろうとする性質」も持っていました。それで、「救世主」は「救い主イエス」を送って、彼女に認識を与えて「情念」を切り離しました。


そして、彼女は天使達と交わって、その像に似せて「霊(霊的な胎児、種子)」を生みました。
そして、「帰ろうとする性質」から「デミウルゴス」と「魂」が生まれました。
一方、彼女から切り離された「情念」は「物質」になりました。この時、4つの感情は4大元素になりました。
こうして、「霊」、「魂」、「物質」という3つのものと「デミウルゴス」が生まれたのです。


「デミウルゴス」は7つの惑星天と地上を創造し、また、人間の「体」を作ってそこに「魂」を吹き込みました。
デミウルゴスの母である「下なるソフィア」は恒星天である中間界にいましたが、彼デミウルゴスは母の存在も創造に至るいきさつも知らず、自分がすべてだと思っていました。
そして、「下なるソフィア」はひそかに「デミウルゴス」の中に「霊的な胎児」を入れていたので、彼を通して人間の中にも「霊的な胎児」が蒔かれていました。
「霊」は天使達の似像という形を持っていましたが、認識を持っていなかったので、成長して認識を得るために地上に降りる必要があったからです。


「救い主イエス」は人間の「魂」を救うために、「魂」と「物質の体」をまとって「イエス・キリスト」として現われました。
「イエス・キリスト」の教えによって人間の「魂」は教育されて、「霊的な胎児」を見つけます。
そして、これが成熟して認識を得ると、その母である「下なるソフィア」はアイオーン界に復帰して「キリスト」を新郎として向かえます。そして、「霊」も「魂」を脱ぎ捨ててアイオーン界に復帰して「天使達」にゆだねられます。
さらに、「デミウルゴス」と良き「魂」は中間界に上昇して、悪しき「魂」と物質界は火によって焼き滅びます。以上で終わりです。


この神話の、まず8つの抽象的な男女神が生まれるという部分は、古代エジプトの神学を引き継いでいるかもしれません。
「アイオーン」というのは、「無限時間」という意味で、ペルシャ系の「ズルワン神」の影響ですし、はっきりとした終末を描く点にもゾロアスター教の影響があります。
そして、「ヌース」、「デミウルゴス」にはプラトンの影響を受けています。「イエス」、「聖霊」にはキリスト教の影響もあります。


このグノーシス主義の神話は、霊魂の神的な起源と堕落について明確に語っています。
ですが、ゾロアスター教やヘルメス主義とは違って、堕落するのは女性の知恵の原理「ソフィア」です。
「ソフィア」は両義的な働きをします。悪しき物質界が生まれる原因ですが、悪神「デミウルゴス」の裏をかいて人間の中に神性の種を植えつけるのです。
このように女性原理を重要なものと考えて、しかもそれを「知恵」として捉えるところに、一般のゾロアスター、ユダヤ、キリスト教と違ったグノーシス主義の特徴があります。


ソフィアの堕落の理由は微妙ですが、旧約聖書にみられるような神に近づこうとしたことを堕落の原因とする発想に近いものでしょう。
グノーシス主義は霊魂の救済のためにはインド思想やプラトン主義同様に認識を重んじるのですが、この認識は霊魂の本来的な神性の認識であると同時に、至高の父は認識できないという認識なのです。
 

posted by morfo at 19:03| Comment(0) | 堕落・救済神話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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