2011年04月25日

ヘルメス主義とアントロポスの堕落

ヘレニズム期のエジプトとギリシャ、ローマの文化交流の結果、エジプトの知恵の神トートとギリシャの知恵の神ヘルメス、そしてローマのメルクリウス(マーキュリー)が同一の神だと考えられるようになりました。
彼は天上、地上、冥界を自由に行き来できるため、「3倍偉大な」という意味で、「トリスメギストス」とも呼ばれました。
紀元前後の頃に、アレキサンドリアなどでヘルメス・トリスメギストスが啓示する形で書かれた文書が多数著わされました。
アレキサンドリアのセラピス神殿の神官達がその中心的な著者ではないかと言われています。
これらの書の内容は宗教的ヴィジョンや形而上学から錬金術、占星術、魔術などと様々ですが、その思想は「ヘルメス主義」と総称されています。


ヘルメス主義には、バビロニアの宇宙論(ズルワン主義=ミスラ教=カルデア神学)やエジプト神学、プラトン主義哲学、ユダヤ教、ゾロアスター教など、様々な思想からの影響を見ることができます。
ヘルメス主義の代表的な書「ポイマンドレース」は、典型的な原人間の堕落の神話を語ります。
ここには次のグノーシス主義と同様、哲学的思考を神話するという側面があります。


まず、「父」であり「両性具有」であり、「光」であり、「生命」であり、「形成原理・原型」であり、「善」であり、「霊的知性(ヌース)」である至高神「ポイマンドレース」がいます。
この父から一方で女性原理の「意志(プーレー)」が生まれます。
これは「闇」であり、「蛇」であり、湿潤で素材的な存在の母体である「自然・本性(フュレー)」を生みます。
一方、父は「一人子(息子)」である「言葉(ロゴス)」を生みます。ロゴスがフュシスに乗ることで、「魂」と「4大元素」が生まれました。
この中で、「火(アイテール)」と「空気」はそれぞれ層をなして上昇し、「水」と「土」は混ざって下降しました。


次に、父はロゴスを通じて「創造神(デミウルゴス)」を生みました。
彼は恒星天の魂であり、火の魂です。このデミウルゴスは惑星魂である「7人の支配者(アルコーン)」と宇宙を作ってそれを司ります。
下降するフュシスからはロゴスが飛び出して本来同質なデミウルゴスに一体化します。
ロゴスを失った水と土は形のない「質料」となります。


次に、父は自分に等しいような「似像」である「原人間(アントロポス)」を生み、これを愛して宇宙の全権を与えます。
アントロポスは自分も創造したいと考えて、創造された世界を見るために宇宙に降りていきます。
すると、7人の支配者がアントロポスにそれぞれの性質を次々に与えました。
(ですから、アントロポスは宇宙の同心円的な階層構造とはちょうど逆に、タマネギ状に服=魂をまとわされたのです。)
アントロポスが惑星天から地上に姿を見せると、地上はアントロポスの美しい姿を見て喜びました。
一方、アントロポスもロゴスなき地上の水に映った自分の「似像」に愛着を感じて、ここに住みたいと感じて、地上に捕まって堕落してしまいます。
アントロポスとフュシスは交わって両性具有の「7人の人間」を生み出しますが、プーレーによって分離されました。


こうして、アントロポスだった神的な霊魂は人間として地上に生まれることになって、自分が本来は至高神と同様の神性を持っていたことを忘れてしまいました。
ですが、このことを知った霊魂は、死後に、7つの惑星天でそれぞれに由来する服を順に脱ぎながら上昇して、裸の霊魂の姿になって父のところにまで帰っていきます。


ヘルメス主義のアントロポスの堕落の物語は、明確に人間の霊魂の本来的な神性を表します。
そして、神的な霊魂の堕落の原因として「偽の像に囚われる」こというテーマが示されています。
このテーマは神性と物質性を取り違えること、特に、本来的な霊魂の姿と単なる自己のイメージとの取り違えを表現しています。 

ヘルメス主義は、秘儀宗教のような集団的で組織立った組織的な秘儀は行われていませんでしたが、書物を重視した、師と弟子の関係を中心としたより小集団による秘儀的な伝授は行われていたと思われます。


 

posted by morfo at 23:40| Comment(0) | 堕落・救済神話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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