2011年04月25日

ユダヤ教のヘレニズム化と女性原理の堕落

ユダヤ教はバビロン捕囚期前後からヘレニズム期にかけて、バビロニア、シリア、ペルシャ、エジプト、ギリシャなどの様々な宗教の影響を受けました。
その中で女神的存在、神的女性原理をテーマにした神話や、ゾロアスター教、ズルワン主義の影響を受けた神話が生まれました。


実は「創世紀」には2度世界の創造が語られます。
最初は単に「神は人間(単数形)を男と女に作った」と語られ、2度目には「アダムの肋骨からエヴァを作った」と語られます。
これらを秘教的に解釈すれば、最初の男女は両性具有の霊的なアントロポス的存在(ゾロアスター教のガヤ・マルタンに相当する存在)で、次のアダムとエヴァが地上の性別を持つ存在(ゾロアスター教の最初の夫婦に相当する存在)だと考えることができます。


また一説によれば、アダムにはエヴァの前にリリス(リリト)という妻があったとされています。
つまり、最初の両性具有の男女はアダムとリリスという2人が一体の存在でしたが、アダムがリリスに男性上位の体位のみを押しつけたので、リリスが神に頼んで分離してもらいました。
そして、リリスは堕落天使サタンの子を生んで堕落しました。
また、アダムとの間にも子をもうけたとされています。
男性上位の秩序から離れたリリスは、現代のウーマンリブ運動の象徴にもなっています。


これらの神話は、神的な女性原理が堕落したという神話ですが、人間とは直接関係ありません。
人間とは直接関係ない堕落に関する神話は「創世記」には他にもあります。
これは「神の子」と表現されている「グリゴリ」という名の堕落天使の一族が存在して、人間の女性との間に「ネフィリム」という種族の様々な巨人達を生んだという話です。
これはひかえめに洪水伝説の導入部で触れられていますが、神はこの巨人達を洪水によって絶滅させてしまいます。

ユダヤ教はオリエントの諸宗教と差別化して女神を否定しましたが、同時にその影響を受けて、いくつかの神的な女性原理の中にそれらを取り入れました。
これらはユダヤ語では女性名詞であり、人格化されて考えられた「聖霊(ルーアハ・ハコーデシュ)」、「知恵(ホクマー)」、「住居(シェキナー)」などです。
「聖霊」は人間に霊感や生命を与える存在で、男性化されてキリスト教にも受け継がれました。
後者の2つについて紹介しましょう。


「知恵(ホクマー)」に関する神話は「旧約聖書」の「箴言(ソロモン王の知恵)」や外典の「知恵の書」などの「知恵文学」と呼ばれる書で語られます。
「知恵」の観念にはエジプトの思想やオリエントの女神(イシス、マアト、アナーヒター、アシェラ)の影響があり、また逆に、グノーシス主義の「知恵(ソフィア)」やキリスト教の「言葉(ロゴス)」に影響を与えたようです。
この「知恵」は宇宙の創造以前から神のそばにいて、神の光を反映する鏡であり、宇宙創造の原型となったと同時に宇宙に浸透・内在してその秩序を司る存在です。
そして、「知恵」は預言者を導き、人々に語りかけます。
「知恵」は理性的な知恵ではなくて霊的・直観的な知恵なので、「善悪を知る樹」よりも「生命の樹」に相当する存在で、人に生命を、霊を与えます。
「知恵」は堕落しませんが、社会が堕落した時、社会から離れて天に戻ってしまいます。


また、「知恵」や「聖霊」と似た神的女性原理に「シェキナー」があります。
これは「住居」や「輝き」という性質を持っていて、神の回りにあると共に宇宙に遍在します。
しかし、悪の行為や社会の無秩序はこれを遠ざけてしまいます。
一説によれば、「シェキナー」はもともと地上にいましたが、アダム以降の人間が罪を犯すにしたがって天高く昇っていってしまったと言います。
また逆に、ユダヤ神秘主義のカバラの神話によれば、この「シェキナー」はもともとは神と一体の存在でしたが、神から分離されて堕落してしまったので、これを再度、神と合一させなければいけないと考えます。
この場合、「シェキナー」はリリスにも似ていますが、グノーシス主義の「ソフィア」の影響があるかもしれません。


ユダヤ人はバビロニアによる捕囚下からペルシャ人によって解放されて以降、ゾロアスター教やズルワン主義の影響を受けて、善悪2元論と終末論の思想を取り入れました。
そして、これまでは人間の信仰心を試す天使的存在だった「サタン」が神に対立する「悪神」と考えられるようになり、また、霊的な体験の中で見た終末のヴィジョンなどを語る「黙示録」が現われました。
終末にはユダヤ人だけでなくて全人類が救われるとする考えも現われて、後のキリスト教が生まれる土台となりました。
ですが、神的な原人間の堕落の神話や、階層的な世界観といった神秘主義の本質にあたる思想の影響はあまり受け入れませんでした。


このように、ユダヤ教の一部がゾロアスター教やズルワン主義の影響を受けてペルシャ化して秘教化しました。
また、秘儀宗教やギリシャ哲学などの影響を受けてヘレニズム化した人々もいました。
こうして、終末論的な独自の世界観を持って伝統的なユダヤ社会と離れた集団がいくつか生まれました。
その中には、死海写本で知られるようになったクムラン教団や洗礼者ヨハネの教団、そして、次の項でも紹介するようなグノーシス的な傾向を持った、シモンの教団やマンダ教などがあります。
キリスト教が禁欲的でもなく、万人に向かって説かれたのに対して、これらは、禁欲的な隠遁生活を送ったり、その奥義を一部の人間にしか明かさないという秘教的な傾向を持っていました。

また、彼らは「ナジール(ナザレ)人」と呼ばれましたが、これは「秘儀を守る者」といった意味です。
イエスが「ナザレのイエス」と呼ばれていましたが、これはナザレ地方出身という意味ではなく、この意味だったのでしょう。

posted by morfo at 23:39| Comment(0) | 堕落・救済神話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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