2011年04月17日

古代エジプトのコスモロジーと死後観

イシス=オシリス秘儀の説明の前に、古代エジプトのコスモロジーと死後観を見てみましょう。

古代エジプトは周辺の多くの移民が住む多民族国家で、各都市それぞれが各時代によって様々な神話と神々を持っていて、それが複雑に絡み合ってきました。
ですが、はっきりと循環する自然環境の影響は共通です。
エジプトでは3ケ月の乾燥期の後、3ケ月の洪水期があり、3ケ月の農作期が来ます。
エジプトの死と再生の主人公は、主に次の3種類があります。
1つはオシリスに代表される穀物神の年周期の復活、もう1つはナイルの女神の年周期の復活(来訪)、最後は、ラーやホルスに代表される太陽神の毎日、毎年の復活です。
オシリス神話以外の神話的発想も参考にみてみましょう。


エジプトでは大地は男神で、大地が浮かぶ大洋に水を供給する天が太母でした。
天は地の上だけでなく、地下世界の下にもあって世界を取り囲んでいます。
天の女神は「ヌート」です。
太陽神「ラー」は毎夕にヌートに飲み込まれて地下へ下り、毎朝ヌートの尻から生み出されます。
このヌーとラーの関係は旧石器時代の太母と太陽神の関係を引き継いでいます。


もう一人の太母が天牛女神「ハトホル」です。ハトホルは「女主人」、「西方の貴婦人」と呼ばれるように、本来は動物の女主、冥界母といった性質を持つ原地母神です。
彼女はヌートやイシス同様に、太陽の鷹神「ホルス」を生むのです。
エジプトでは多くの女神が互いに同一視されました。


エジプトでは、乾燥期の後、70日間隠れていたシリウス(シリウス女神ソテス=イシス)が姿を現し、太陽が獅子座(獅子女神セフメト=テフヌト)に入った頃、ナイルは増水し洪水期に入ります。
これがエジプトの新年(太陽暦の7月)です。
ナイルの川は北からエジプトに流れますが、その激しい流れは徐々に優しくなります。
そしてエジプトを原初の海「ヌン」のように水没させます。


ナイルの増水は、遠方に去っていた女神が戻ってくるのだと考えられました。
この遠方の女神は太陽神の娘であり、乾季に遠方に去って野生に戻りますが、新年には鎮められて優しく若々しい姿で連れ戻されます。
これは女神の4変化として現されます。
根源の太母、としての牛女神「ハトホル」、ラーの目で荒々しい獅子女神「セフメト(テフヌト)」、可愛らしく多産の猫女神「バステト」、ラーの額で守護する蛇の女神「ウアジャト(ウラエウス)」です。
エジプトの新年には、ナイルの増水と共に遠方の女神が復帰し、同時にこの水没という女神の子宮の中で、穀物神オシリスが復活し、死者達も復活します。


イシス=オシリスの秘儀はヘレニズム期の階層的な宇宙論をもとにして体系化されていますが、秘儀を紹介する前に、神話の基盤になった古代エジプトの宇宙論、死後観を簡単に紹介しましょう。
太古には、死後の冥界は地下に考えられたのでしょうが、紀元前数千年の頃にはすでに天上志向の死後観が出来上がっていました。
エジプトの死後観に関しては様々な解釈がありますが、以下の説明はイギリスのエジプト学の権威、ウオリス・バッジの『エジプトの死者の書(古代エジプトの原題は「日の下に出現することの書」)』を中心にしています。


まず、死後の世界は上下に階層的になっていて、「天国(霊的な世界)」や「極楽(優れた魂の世界)」、「魂の世界」、「地獄(冥界)」に相当する場所があります。これらの世界は、現実の宇宙との位置関係では考えなかったようですが、あえて言えば重なって考えられていたのかもしれません。

人は死後、死体から魂の体「クウ」(=アストラル体)を得て、さんずの河や冥界のような危険な場所を通って魂の世界に至ります。

そして、オシリスの審判によって裁かれて、悪人は地獄に落とされて凶霊になり、善人は魂の世界に生きます。
ですが、魂の世界での魂は不安定で、高い意識の状態「バー」(高次なアストラル魂に相当するもので、コウノトリや人頭の鳥として表現されました)になったり、低い意識の状態「カー」(低次なアストラル魂に相当するもので、両腕として表現されました)になったりします。
魂の世界で修行に励むと「バー」の状態や、あるいはより高い霊的な「アク」(トキや不死鳥として表現されました)の状態になって、天国に昇ったり最終的には太陽神ラーの舟に乗ることもできますが、逆に、悪い記憶を思いだしたりすると「カー」の状態になって、地獄に捕らわれることもあります。


魂の状態は魂の体「クウ」の健康と関係しています。
「クウ」の健康は、「クウ」が生まれるまでの死体の保存状態(何よりもまず死体が切断されることを絶対に避けなければいけません)や、死体に対する呪術によって保証されます。
主な呪術には、「クウ」が健全な口(言葉)、手足、目、生前の記憶などを獲得するためのものがあります。


呪術を行うと、死体に「サーフ」と呼ばれる霊体が発生して、これが死後の魂や「クウ」に良い影響を与えるのです。
死体は4つの内臓(肝臓、肺、胃、腸)を入れた壷と、心臓を残したミイラに分けて別々に保存されました。


ミイラや墓は神々にとっての神像や神殿と同じような、捧げ物をもらったり、休憩する場所と考えられました。
ミイラに対する呪術は、魂を天国にまで導くことに重点が置かれていて、内臓に対する呪術や葬儀の儀礼は、健全な「クウ」を得て魂の世界で健康に生活することに重点が置かれていたと推測されます。
また、魂の世界で「クウ」を凶霊に食べられたりして地獄に落ちることもありますが、魂の世界での呪術によって魂の世界に戻ることも可能です。


魂の世界では呪文が大きな力を持っていますが、これは魂の世界自体が言葉でできているからだと考えられています。
この考え方はプラトンやキリスト教と同じです。


このように、古代エジプトで「不死」とは魂の世界や天国で生きること、「再死」とは地獄に落ちること、「復活」とは死後に魂の世界に生きること、もしくは地獄から魂の世界に脱出することを意味します。


時代が下ってヘレニズム期には、古代エジプト死後の様々な世界はベビロニア起源の階層的な宇宙論の対応して置き換えられていきました。
魂の世界は7惑星天に置き換わりました。
極楽はその上で宇宙の最上部である恒星天に相当するでしょう。
そして、太陽神ラーの世界やオシリスのいる天国は、宇宙の外である神の世界となりました。
そして、月より下の世界は4大元素でできた煉獄的な世界です。
 

posted by morfo at 22:09| Comment(0) | 秘儀神話と秘儀宗教 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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